対談 マテリアリティを軸にした戦略的CSRの推進に向けて

2016年5月、重点的に取り組むべきCSR重要課題(マテリアリティ)を特定し、グループ全体で目指すべき方向性を明らかにしたカシオ。マテリアリティをめぐる考え方を社内外に広く発信し、より戦略的なCSRマネジメントを推進していくため、IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者の川北 秀人氏を迎え、ご意見・ご提言をいただきました。

IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人氏、執行役員 CSR推進部長 小林誠、CSR推進部 CSR推進室長 木村則昭 の写真です。
右よりIIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人氏、執行役員 CSR推進部 部長 小林誠、CSR推進部 CSR推進室 室長 木村則昭

マテリアリティの確実な社内浸透へ

執行役員 CSR推進部長 小林誠の写真です。

小林 カシオでは、2014年度から約2年間をかけてマテリアリティの特定を進めてきました。その過程では、法務・人事・総務・営業・生産資材・環境など幅広いメンバーが集まって自社軸で1年議論し、さらにもう1年、社外の方々からご意見をいただきステークホルダー軸で検討を重ねています。KPIへの落とし込みなどには非常に苦労し、振り返ればここまでよくやりた遂げたと思うほどたいへんな道のりでしたが、そうしたプロセスそのものが価値あるものだったと感じています。社外有識者の皆様とも継続的なつながりを得る良い機会となりました。

川北氏 貴社で特定されたマテリアリティにおいて特徴的であり、高く評価できるのは、サプライチェーンに関する項目の重要度が高さです。サプライチェーンを重視する企業は多くても、サプライヤーの人権を最優先課題のひとつに置かれることは少ないものです。貴社ではすでに取り組みが進みつつある中、マテリアリティとしてそれをあらためて明示したことで、「自社内だけでなく、取引先に関連する取り組みを重要と考える」と、サプライヤーに対する強いメッセージを打ち出されています。

木村 これまで人権に関しては、従業員教育などを含めて相当に取り組んできており、社内の意識はかなり醸成されてきたと感じます。また、紛争鉱物の調査にも注力し、現在では一次取引先への監査が7割程度まで進んでいます。今後もこれらは継続していきたいと考えています。

川北氏 特定されたマテリアリティをいかに社内で深く共有していくかが、今後重要な点ですね。これは、表面的な項目を上から伝えて浸透できるようなものではなく、対話を重ねて理解を促していくべきものです。環境や人権の重要性が理解されにくい場合、それをお客様の声として届けるのも有効です。「社長や部長がこう言っている」ではなく、「こうした対応ができないなら、今後は取引が難しいとお客様に言われている」と市場の要請をストレートに伝えれば、生産現場や調達など現場は必ず動きます。

小林 その点は非常に実感するところです。「市場がこう言っている」というのは上司からの命令よりよほど説得力があり、今後取り組みを進める上でポイントになってくるのだと思います。

木村 当社の取り組み状況を問うアンケートは、既にさまざまなお取引先から年間膨大な数が寄せられていて、CSR推進部で対応をしています。アンケートにどういう質問項目があるのかを見れば、市場からの要請は一目瞭然です。時間はかかりますが、その傾向を分析して社内に共有するということが今後は必要なのかもしれません。

川北氏 貴社の市場を考えると、欧州はもちろん、中国や新興国も大事です。欧州はすでに企業の社会的責任をめぐる規格が整備されており、それがアンケートや監査に反映されてきます。それに比べて、新興国からどのような期待を受けているかの抽出には苦労されているのではないでしょうか。

木村 おっしゃる通りで、ASEANなどは将来に向けた注力エリアとなっています。当社では、営業が現地との太いネットワークを持つのが強みであり、特に教育関連では、各国の教育省や地方自治体の教育責任者などとの信頼関係を築いてきています。そうしたところからカシオに寄せられる期待はかなり吸い上げてきているので、CSR推進の上で重視していかなければならないと考えています。

カシオならではの製品・技術を活かし 新たな社会的価値を生み出す

木村 近年、国際的な潮流では、サスティナビリティ(持続可能性)とプロフィタビリティ(収益性)との一致が共通認識として前提になってきていると感じます。なぜそうなるのかを問う段階はとうに終わっていて、2つがイコールになる戦略がとれない企業は問題があるという文脈になってきているのです。サスティナビリティ関連セミナーなどに参加すると、社会貢献をしながら事業成長をするのが当たり前という空気感を直に感じ、非常に刺激を受けます。

川北氏 環境面を例にとると、日本では地理的に水の問題をまだ実感しにくいものの、欧米諸国では水不足や干ばつを含め、気候変動を肌で感じるようになってきています。企業でも、気候変動が大きな要因となって市場を不安定にし、収益予測を難しくすることが実感されてきています。「収益を予測可能なものとするためには、社会全体の安定性を増すしかない」という考え方が、メガブランドでは主流になりつつあります。

CSR推進部 CSR推進室長 木村則昭の写真です。

小林 気候変動はもちろん、さまざまな社会課題が私たちの市場に与える影響は大きいものです。事業とは直接的にかかわりがなくても、製品に結びつくところで何らかの貢献ができないかと当社でも模索を続けています。

川北氏 貴社では、時計をはじめ、個人向け端末を多く開発・販売されています。温度計や湿度計がITでつながると気象観測システムができますが、貴社の端末にそうした測定と発信の機能をもたせられれば、国内外に数え切れないセンサーが生まれます。まさにIOTの世界で、ユーザーに情報の送り手となってもらう社会的価値は大きいと思います。

木村 以前、社内でブレーンストーミングを行った際、「時計にはいろんなセンサーが入っているが、そのひとつとして電磁波センサーを搭載すれば、地震の直前に乱れる電磁波を感知できるのでは」という案が出たことがあります。何百万人もいるカシオユーザーからそれが自動的に送信されれば、地震予測への対応が可能になるかもしれません。

川北氏 まさしくそういった発想が求められています。貴社製品にはデジタルサイネージもあり、情報をターミナルで見せられる端末もお持ちです。言い換えれば、変化が起きる前にその状況を察する機能と、起きた時にいち早く伝えられる機能を併せ持つということです。それらを活かせば、気象情報を集める手段がない新興国でも、高精度な測定データを提供できるでしょう。ITインフラや収集したビッグデータの分析には、他社との協業も考えられます。どのようなビジネスモデルをつくれるかが期待されるところで、多様な可能性を従業員の皆さんが感じながらマテリアリティの高い項目に取り組んでいければ素晴らしいですね。

小林 従業員からさまざまなアイデアが出てきてほしいと願います。そういう意味で、CSR推進の核人材となる「CSRリーダー」に期待しています。すでに3回のミーティングを開催しましたが、高い意識を持つ人が多く集まり、柔軟な発想のもと活発に意見が交わされて、良い傾向にあります。また一方で、開発部門との対話も非常に重要です。製品を通していかに社会に貢献していけるか、モノづくりの現場の声に耳を傾けることは欠かせません。ひとつひとつの地道な積み重ねから成功事例を生み出し、横展開していければと思います。

対話や協働を重視した取り組みを推進

川北氏 人権・環境・教育など、貴社が注力する領域に強みをもつNGOなどの他団体との連携も求められています。それにより取り組みに対する適切な評価を得られますし、発展性のあるコミュニケーションが取れるでしょう。製品・事業の今ある価値を守り、将来価値を切り拓くために、どういう団体と組むべきかというシナリオを意識されるべき時期が訪れています。

小林 重要なことだと感じます。私たちがどのような価値を提供していくべきか、市場から受ける要請を見極め、行動に移していくために、社内はもちろん社外の声を吸い上げる仕組みをもつことは不可欠です。

IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人氏の写真です。

木村 環境分野では、当社では、海をブランドイメージにした「OCEANUS」や登山・アウトドア用の「PRO TREK」などの時計を持っています。これに関連して、海洋保全や森林整備を通した生物多様性のイニシアチブをとっていく検討を現在進めていますが、環境調査ひとつとっても当社単独でできるようなものではなく、外部との協働を考えていかなければなりません。

川北氏 その領域で活躍し貢献した人を表彰することもお勧めします。例えば「OCEANUS」にちなんだ海の表彰制度として、マリンスポーツや海洋研究で優れた人を表彰し、実際に「OCEANUS」を使ってもらうなどが考えられます。表彰制度を通じて、その領域をリードする人々とのつながりが生まれ、対話の機会をもつことでき、従業員や市場の共感も得やすいでしょう。アンバサダーを任命するようなものと考えるとよいかもしれません。政府や地域に対しても、企業が言って聞いてもらえなくても、アンバサダーを通して伝えることで耳を傾けてくれる可能性は十分あります。

木村 カシオでも、著名な登山家とともに共同開発した「PRO TREK」などの例があり、ストーリー性ある展開は可能だと思っています。また、「G-SHOCK」では、その魅力を伝えるイベント「ショック・ザ・ワールド」を世界各地で開催していますが、こうした印象的なイベントをブランドごとに展開できるといいのかもしれません。

川北氏 そうですね。肝心なのは、今まで販売促進として行われてきたものであっても、社会的な価値領域へと向けていくことです。その意味で、表彰制度は販促と社会貢献が重なり合ったところにあります。メディアに対し、アンバサダーに貴社の価値観を話してもらうこともできるでしょう。なぜカシオが人権を重視するのか、あるいは山や海で生物多様性に取り組むのかとなど、社内ではなく外部の人に話してもらうのは意義の大きいことです。

小林 ブランド価値を社会的価値に重ねて高めていこうとする機運は、社内でも高まっていると感じます。ブランド力向上は皆が目指すところですが、これまでは宣伝・営業・開発・CSRなどがそれぞれ個別に取り組んでいた感が否めません。しかし、社長がリーダーシップをとり、それらを集約して会社としてやっていこうという動きが徐々に生まれてきています。

川北氏 全社を巻き込んでいくためには、トップの考えをグループ全体に随時伝えていくことも重要です。社長や各部門長が、今どのようにCSR観点から事業展開を考えているのか、ブログや社内報などのツールを最大限に活用して、タイムリーで直接的な発信が他社でも始まっています。

「自分事」として捉え、さらなる発展を目指す

川北氏 将来に向けて考えると、貴社では既にCSRとして求められることをキャッチアップされており、「次にどうするか」を問う段階を迎えています。日本の少子高齢化や新興国の成長など、市場の変化は著しく、今のマテリアリティは永続的には通用しません。環境の変化に合わせて見直しや進化を重ね、経営上の優先順位や機能に反映させていく必要があります。

木村 今回のマテリアリティについては、議論にあたったメンバーの中からも「これらはマテリアリティとして不可欠だが、守りのCSRになってしまっているのが今後の課題」という声が上がりました。社内からそうした意見が出るというのは、逆に心強いという思いがあります。COP21やSDGs(持続可能な開発目標)など世界的な潮流を意識した上で、カシオらしい新たな価値を生み出すCSR戦略を構築しなければ、2020年やその先も社会からの要請には応え続けることはできません。

小林 経営理念に「創造 貢献」を持つ当社にとって、事業を通じて社会貢献をするという考え方はもともと刷り込まれたものです。今回マテリアリティを特定していく過程では、当社が元来持つ理念とどう重ね合わせていくかが問われました。今後は、激しい環境変化を踏まえつつ、マテリアリティをどう具体的な戦略と呼応させていくかを考えなければなりません。こうした状況であればこそ、従業員にはマテリアリティを自分事として引き寄せて考えてほしいと願います。

川北氏 従業員には、「あなたにとってマテリアリティの高い項目は何か」をたずね、意識を促すことも重要です。CSRをESR(Employee Social Responsibility)として、従業員の社会的責任に落とし込んでいくということです。

木村 CSRリーダー会議では、まさに今そういった議題で話し合いを重ねています。自部門の社会的責任は何か、また一個人としての社会的責任は何か、まずは、CSRリーダー同士でそうした身近なところから考えることが大切だと思います。CSRリーダーは、今は本社に在籍する100名のみですが、今後1年間で全国に広げ、その後は海外にも展開していく予定です。

小林 今回さまざまな貴重なご意見、アドバイスをいただき、今後の取り組みに向けた大きな糧となりました。本日は誠にありがとうございました。

IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人氏、執行役員 CSR推進部長 小林誠、CSR推進部 CSR推進室長 木村則昭 の写真です。