CSRの先進事例から学ぶ -事業目標とサステナビリティ目標を一体化させるオムロンの事例

CSRマネジメントを強化していくため、カシオでは先進的な他社事例から学ぶことを重視しています。2018年6月、オムロン株式会社サステナビリティ推進室企画部 部長の貝﨑 勝氏を本社にお迎えし、サステナビリティ推進部 社会環境企画室長 木村則昭とのダイアログを行いました。企業理念を軸に戦略的なサステナビリティを推進し、高い評価を受ける同社の取り組みについてお話を伺うとともに、CSRの考え方や社内への意識浸透、SDGs対応などをめぐり、幅広く意見を交わしました。

右よりオムロン株式会社サステナビリティ推進室企画部 部長の貝﨑 勝氏、サステナビリティ推進部 社会環境企画室長 木村則昭の写真です。

「企業理念の実践=サステナビリティ推進」という考え方

木村 カシオでは2019年度より、従来のアニュアルレポートを改め、統合レポートの発行に向けて準備を進めています。まだまだ課題も多く試行錯誤する段階で、オムロンさんのレポートには学ぶところが非常に多いと感じています。貴社では日本においてかなり早い時期から統合レポートを発行されてきていますね。

貝﨑氏 当社で初めて発行した統合レポートが2012年版でした。その前身となったのがアニュアルレポートと「企業の公器性報告書」で、当初はオムロンも手探りで2つのレポートを合体させて厚い冊子を作ったような形でした。その後、徐々に統合の精度を上げてきています。

木村 「企業の公器性報告書」というのは独特のネーミングですね。これは企業理念に通じるものかと思います。

貝﨑氏 そうですね。オムロンは「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」という創業者・立石一真が定めた社憲をもち、その背景にあるのが「企業は社会の公器である」という考え方です。当社は2015年に企業理念を改定しましたが、社憲については新しい企業理念でも変わらず明示しています。

木村 企業理念を見直したのはどのような背景からでしょうか。

貝﨑氏 グローバル展開を加速していく中、企業理念が現場で薄れてきているのではという危機感が当時社内にありました。1959年に制定して以来、約60年にわたってオムロンが拠りどころとしてきた社憲は、社員一人ひとりが日々の仕事の中に落とし込んでこそ意味をもつものです。従来の企業理念から内容は大きく変わらないものの、複雑だった理念体系を見直すことで、社憲の精神をよりシンプルにグローバルにわかりやすく伝え、実践につなげていくというのが改定の狙いです。

木村 その後、2017年には「サステナビリティ方針」を定められています。こうした方針策定に取り組まれたのは?

貝﨑氏 サステナビリティ方針は、もともとあった「CSR取り組み方針」を見直したものですが、企業理念とあわせて改定した「経営のスタンス」と内容が似ており、社員にはわかりにくかったのです。そこで、サステナビリティ方針は、企業理念に基づいて経営のスタンスで宣言している「企業理念の実践を通じて、持続的な企業価値の向上を目指す」ことと同義と捉え、その内容を同一としました。つまり「オムロンにとっては、企業理念の実践=サステナビリティ推進である」と捉え直して、それを打ち出したのがサステナビリティ方針です。

SDGsへの貢献を中期経営計画に連動させる

オムロン株式会社サステナビリティ推進室企画部 部長の貝﨑 勝氏の写真です。
オムロン株式会社サステナビリティ推進室企画部 部長
貝﨑 勝氏

木村 2017年度からの中期経営計画「VG2.0」の中では、4つの注力ドメイン(ファクトリーオートメーション、ヘルスケア、モビリティ、エネルギーマネジメント)ごとに「サステナビリティ目標」を定めて、さらにそれをSDGsにも紐づけされていますね。ここまでつくり上げるご苦労は相当なものだったのではないかと思います。SDGsへの対応は当社でも不可欠と考えていて、いずれはオムロンさんと同様、事業部ごとのサステナビリティ目標を策定し、事業戦略と一体化させていきたいと考えています。貴社では、新中期経営計画について話し合う中で、SDGsへの理解を社内にどのように求めていきましたか?

貝﨑氏 VG2.0にサステナビリティの考え方をつなげていくための議論は何度も重ねました。特にこだわったのは、2030年のあるべき姿やSDGsからバックキャストをし、2020年の社会的課題を設定することです。SDGsと取り組むべき社会的課題は、当社の注力ドメインと重なる部分が多く、連続性がありました。社憲で「よりよい社会をつくりましょう」とうたっている以上、VG2.0でも社会的課題の解決が柱になることには反論の余地がありません。SDGsもまた当社の企業理念を具体化させていくためのツールと捉えることで、経営層の理解は得やすかったと思います。

木村 4つの注力ドメインで、サステナビリティ目標はどのように策定されましたか?

貝﨑氏 まず私たちサステナビリティ推進室で、未来志向で「オムロンで解決する社会的課題のたたき台を出したのちに、各部門でも検討してもらいました。その後、SDGsの17のゴールと169のターゲットへどのように結びつくかを議論しました。目標設定では、社会的な価値の拡大につながるか、社員にとってわかりやすくポジティブな内容であるかを重視しました。もちろん、中期経営計画との整合性にはこだわりました。事業目標と異なるサステナビリティ目標を定めてしまうと現場は混乱します。例えばヘルスケアドメインの2020年のサステナビリティ目標は「血圧計販売台数2500万台/年」です。目標を金額や市場シェアではなく台数にしているのは、「2500万台の販売により、2500万人の患者さんに家庭で血圧を測るという価値を提供する」という発想からです。ひいてはそれが心筋梗塞や脳梗塞などの発症リスクを下げることになり、医療費の削減や健康寿命の延長などの社会的な課題の解決につながります。

木村 事業目標とサステナビリティ目標を一致させるということですね。現場の方々にとっては受け入れやすいのではないでしょうか。

貝﨑氏 その通りです。事業目標とサステナビリティ目標を表裏一体の関係にしておくことで、業績側では売上やシェアで話し、社会的価値につなげて台数で話すという使い分けもできます。両者はつながっていて、どちらも企業理念実践の一側面であることを徹底して社内に理解を求めています。

自社の取り組みに対し、客観的な評価を受ける重要性

サステナビリティ推進部 社会環境企画室長 木村則昭の写真です。
サステナビリティ推進部 社会環境企画室長
木村則昭

木村 統合レポートを拝見してもうひとつ注目したのが、オムロンさんでは役員報酬が中長期業績連動型となっていて、さらにそこに今回からサステナビリティ評価が加わったという点です。非常に緻密な戦略で取り組まれているなと感服しています。このサステナビリティ評価をDow Jonesの指標・DJSIに準拠させたのはどういう意図でしょうか。

貝﨑氏 第三者の視点を基軸にもちたいという思いがありました。そもそもサステナビリティとは社会からの評価が欠かせないもので、投資家を含めた幅広いステークホルダーの目で、自社の取り組みが一定のレベルに達しているかを確認していくことが大切です。

木村 DJSIは世界的に知名度が高い指標でありながらも、評価の理由が外部からは見えにくいのも事実です。役員の方の納得感の面で問題にはなりませんか。

貝﨑氏 確かにDJSIは相対的な評価なので、オムロンが頑張っていても他社の取り組み次第で結果は異なってくるでしょう。しかしグローバル全体の中でどのように位置付けられているかも重要なものさしです。社内指標ならもっと分かりやすい仕組みをつくれるかもしれませんが、そのぶん達成しやすい目標を立ててしまうこともありえます。客観的な評価を受けるというのがやはり一番のポイントだと思っています。

木村 一連の取り組みをストーリーにまとめ、外部に発信した「統合レポート2017」は、社会的にも高い評価を受けられていますね。

貝﨑氏 「WICIジャパン統合報告優良企業賞」「日経アニュアルリポートアウォード2017」を受賞したほか、GPIFからも「優れた統合報告書」「改善度の高い統合報告書」に選んでいただきました。事業ごとに非財務の目標を掲げたこと、事業を通じてSDGsへの貢献を示したこと、役員報酬に第三者のサステナビリティ評価を組み込んだことなどを開示したことが受賞のポイントとなったようです。こうした評価をいただいたからには、今後いっそう取り組みを進め、適切に情報開示していかなければと身の引き締まる思いです。新たな体制でスタートを切って1年が経ち、目標自体が現状にそぐわないと感じるものも出てきています。一度決めたからといってそれに固執しすぎることなく、世の中の流れを受けて見直していくことも重要だと思っています。

木村 そうした柔軟さは大切なのでしょう。目標は数字で表すと「必達目標」になりがちなため、一般に数値化を嫌う傾向がありますが、貴社はそんな難しさをよく克服されていると感じます。あと2年でVG2.0の目標年とされる2020年を迎えますが、すでに次の中期経営計画を視野に入れられていますか?

貝﨑氏 当社では10年ごとの長期計画を策定していますので、2020年の次の10年を見据えたプロジェクトが来年頃から始動します。ただ、環境目標だけは今ある2020年目標では対応が追いつかないので、より長期的な目標を今年度中にも策定する予定です。

  • DJSI(Dow Jones Sustainability Indices)/長期的な株主価値向上の観点から、企業を経済・環境・社会の3つの側面で統合的に評価・選定するESGインデックス。

CSRの意識を社員に浸透させていくために

木村 CSR 推進にあたって従業員の意識は非常に大切ですが、社内浸透という点で難しさを感じることは多々あります。カシオでは貴社の社憲にあたるものとして、「創造 貢献」という経営理念をもちます。これをブレイクダウンしたものが創造憲章ですが、現在この創造憲章を見直し、経営理念を実践に結びつけていくための方向性を探っています。

貝﨑氏 理念を実践に落としていくための仕掛けづくりは、どの企業でもほんとうに苦労するところだと思います。オムロンでも、社憲を言えない社員はいませんが、ほんとうの意味で理解して行動に移せるかというとハードルは決して低くありません。各部門で目標を設定してPDCAを回していくものの、全社的な想いに対して現場の温度差を感じることもあります。そこは粘り強くやっていくしかないと思っています。

木村 社員一人ひとりに腹落ちするかどうかというのが一番の肝なのでしょう。社内浸透を目的に、当社では2015年より「CSRリーダー・ミーティング」を実施しています。これは各部門でCSRリーダーを選出し、定期的に集めてCSR研修を行うもので、現在本社では約100名の CSR リーダーが活動にあたっています。まだまだ人数が少なく強力に全社を引っ張っていく集団にはなりきれていないものの、今後ローテーションを行ってCSRリーダー経験者をもっと増やし、CSRやSDGsを共通言語に会話できる土壌を徐々につくっていければと考えています。

貝﨑氏 素晴らしい取り組みだと思います。社内にCSRの伝道師を置くということだと思いますが、100名もの人材を育成し続けるというのは並大抵のことではないでしょう。当社の場合は、社内の意識浸透を担うものとして、「TOGA (The Omron Global Awards)」と呼ぶ社内表彰制度があります。全世界の社員が「自分たちの取り組みがどのように企業理念を実践し、社会的価値の創造に貢献したか」を発表する取り組みで、エリアごとに選考会を実施し、13の優れたテーマを選出します。最終発表は毎年5月10日のFounder's Day(創業記念日)に本社のある京都で行い、各国の社員が見られるようグローバル配信されます。2017年度は世界で約6,200件、51,000名のエントリーがありました。当社の社員数は約36,000名なので、ひとりが2つ以上のグループでTOGAに参画している計算です。

木村 大変な規模感ですね。最終的なプレゼンテーションでは全世界から選ばれた社員が集まってくるということですね。

貝﨑氏 はい。海外拠点の社員も日本滞在中には京都にある立石一真創業記念館を見学するなど、オムロンの原点に触れられるような機会も設けています。海外で現地採用された社員の場合は特に、自部門以外でオムロンがそもそもどのような会社で何をやっているかが見えにくいのが実際です。こうした機会にオムロンへの理解を深め、社員同士で交流を持つことも重要だと思っています。

木村 受賞したグループには、報奨金のようなインセンティブを設定していますか?

貝﨑氏 はい。ただ、エントリーの促進のためではなく、受賞に対する労いの意味が強いです。その他、メダルなどの授与もありますが、海外の社員にとっては、日本に行けることが相当のインセンティブになっていると聞いています。人事上の記録にもTOGAの受賞歴が残るため、実績になるという点でも意義があるかもしれません。最終選考は役員が行いますが、予選レベルでは社内SNSを通して誰でも投票に参加できる仕組みをとっています。TOGAは2012年に開始したのですが、以前は事業成績を問うような発想からなかなか離れきれずにいました。2015年度に企業理念を改定して以後、ようやく馴染んできた感があり、参加する社員の間にもいかにして「ソーシャルニーズの創造をしていくか?」や「社会的課題をいかに解決していくか?」という視点が根付いてきています。

木村 非常に意義ある、オムロンさんならではの取り組みだと思います。当社にも社長賞の制度はありますが、現状ではそこに ESG の要素は加味されていません。非常に大きなヒントをいただきましたので、ぜひ今後の参考にさせていただきます。

社外とのコミュニケーションを強め、CSRの深化へ

木村 社外とのエンゲージメントとしては、オムロンさんでは2017年度ESG説明会を開催されていますね。これはどういう経緯で始められたものでしょうか。

貝﨑氏 もともとIR活動は積極的にやっていたものの、IRではどうしても業績中心の話となり、非財務分野が置き去りになりがちです。その対策として、非財務に特化したエンゲージメントの場を新たに設定したのがESG説明会です。2017年12月に開催した第一回目は、人財、ものづくり、リスクマネジメント部門の取り組みを担当役員からご紹介しました。年末だったのにも関わらず160名を超える投資家やアナリストなどの皆様が集まってくださり、予想以上に高い評価をいただくことができました。手探りではありますが、今後も継続していく予定です。

木村 そうした説明会は当社もぜひ検討していきたいです。経営層が社外に非財務を発信していく土壌をつくる意味でも、統合レポート発行はひとつのステップになってくるのかもしれません。最後にカシオのCSR推進についてご意見があればお聞かせください。

貝﨑氏 環境対応については、カシオさんは先進的なコミットメントを発信されていると思います。温室効果ガス削減の長期目標として、2013年度に対し2050年度に80%削減という目標を掲げられていますね。当社ではまだ原単位の目標になってしまっているので、今後総量での長期目標の設定に見直していきます。

木村 「2050年度までに80%削減」は以前から掲げていたものの、従来は基準年を2005年度としていたところをより高い目標となるよう基準年を2013年度に見直したのが現在の目標です。簡単にクリアできる目標では決してないので、まだまだ課題が多い中、取り組みを強化していかなければならないと思っています。

貝﨑氏 またもうひとつ、今回のように他社事例を扱ったり、有識者を招いたダイアログの開催など、社外の声をレポートに積極的に取り入れていくのはユニークな取り組みだと思います。さらにサプライヤーを訪ねて対話の場をもつなど、サプライチェーンを重視する姿勢も伝わってきます。

木村 レポートへのダイアログの掲載は、外部からの声を社内に共有する意味でも重要と考えています。CSR推進のレベルを上げていくため、今後もさまざまなご意見から学んでいければと思います。本日は誠にありがとうございました。