<CSR対談> CSRの先進事例から学ぶ -国際規範への対応を進める富士通の事例-

2017年6月、カシオ計算機本社に、富士通株式会社CSR推進室シニアディレクターの藤崎壮吾様をお迎えして、お話を伺う機会を得ました。全世界に16万人もの社員を抱える富士通は、日本有数のエレクトロニクス企業・ICTベンダーであると同時にCSR先進企業としても常に社会から注目されています。今回は、富士通のグローバルなCSR推進を支える企業倫理体系FUJITSU Wayの浸透や、SDGsへの取り組みなどについて、当社CSR推進室室長 木村則昭がお話しを伺いました。

右より富士通株式会社CSR推進室 シニアディレクター 藤崎壮吾氏、CSR推進部 CSR推進室 室長 木村則昭 の写真です。
右より富士通株式会社CSR推進室 シニアディレクター 藤崎壮吾氏、CSR推進部 CSR推進室 室長 木村則昭

FUJITSU Wayの制定と社内への浸透

木村 まず、FUJITSU Way制定のきっかけからお聞かせください。

藤崎氏 FUJITSU Wayの第一版を制定したのは2002年で、ちょうどCSRという言葉が一般的になりつつあるころでした。それ以前から私たちには、「信頼と創造」──富士通に対して信頼を寄せてくださるお客様に、素晴らしい技術を提供するという社是がありましたので、流行りの言葉できれいにまとめるというよりは、そうした私たちが本来もっているものを大事にしながら、企業理念、企業指針などのドキュメントを一体的に出していこうということで制定したものです。

木村 中でも、企業理念にある「快適で安心できるネットワーク社会づくりに貢献し」という部分は御社ならではのキーワードだと感じます。

藤崎氏 そうですね。やはり我々の事業の一番の核は、ICTを使ったネットワークを通じてお客様に価値を提供するということ。お客様の多くは政府機関や病院、金融機関など社会基盤を司る方々ですので、そこにより良いものを提供したいという思いが強くあります。

木村 FUJITSU Wayは、多言語に翻訳されたりと社内浸透のためにもさまざまな工夫がされているそうですが、これまでどのような取り組みをされてきたのですか。

藤崎氏 浸透にもいくつかのレベルがあると思いますが、まず「知ってもらう」段階においては、ポスターやスモールカードの作成、eラーニングの実施などがおもな施策です。「FUJITSU Wayというものができて、そこにはこういう内容が書いてある」ということを、さまざまな場面で繰り返し伝えてきました。ただその先の、実践レベルでの浸透という面では、いまだに試行錯誤中ですね。国によっても向いたやり方は違いますし、難しいところがあります。

木村 役員レベルでは「FUJITSU Wayを富士通の経営の根幹に据えよう」というコンセンサスはすぐに共有されたのでしょうか。

藤崎氏 そこはかなりスムーズだったと思います。トップマネジメントが守るべき非常に重要な価値観だという認識は、しっかりと共有されていると感じますね。

木村 制定の段階で中心になったのは、藤崎さんたちCSR担当部門ですか。

藤崎氏 CSR担当部門は当時は存在していなかったため、人事部門や法務部門なども含め、社内横断的に制定しました。ですから、どこの部署の人間にとっても「自分の知らないところでできたもの」という感覚はなかったと思います。

木村 だからこそ価値観の共有もスムーズだったのでしょうね。多言語化やポスター作成などのプロモーションはどの部署が担当されていますか。

藤崎氏 FUJITSU Way制定と同時に立ち上がった「FUJITSU Way推進室」が担当しています。ただ、FUJITSU Wayは非常に多くの要素を含んでいますので、ひとつの部署だけで推進できるというものではありません。例えば行動規範については法務やコンプライアンスの部署の担う部分が大きいですし、我々CSR推進室では企業指針に近いところを担当している。そのあたりの役割分担は自然とできていると感じますね。さらに、常務以上の役員が参加する「FUJITSU Way推進委員会」という組織もあり、年に3回、ここで内容の確認や見直しを行っています。

木村 その他にグローバルな組織として「CSRグローバル・コミュニティ」があるとお聞きしました。

藤崎氏 以前、国内外の各拠点に置いていた「CSR推進リーダー」を、より実践的な役割を果たすことを目指して改称したものです。各拠点、あるいは部門から1名ずつ、拠点の代表者や本部長クラスの社員が参加して、関連部門と連携しての個別の施策を推進したり、優良事例を共有したりといった役割を担っています。

木村 なるほど。グローバルな組織でいうと、カシオでは1年半ほど前から「CSRリーダーミーティング」という取り組みを始めていて、これを今後国内グループ会社および海外にも広げていきたいと思っています。CSRリーダーを対象に集中的にCSRに関する研修を行い、それを彼らが各部門にフィードバックすることで浸透を図るという試みなのですが、こうしたボトムアップ的な組織についてはどうお考えですか。

藤崎氏 非常に重要と思いますが、それについては、我々も悩みながらやっているところです。というのは、これまでのFUJITSU Wayの推進だけであれば、ポスター掲示や研修会の実施などFUJITSU Wayそのもののプロモーションが中心になりますが、徐々にISO26000やEICC(電子業界行動規範)などの世界的な規範で求められる、縦のガバナンスにかかわる要素も大きくなってきているからです。一方で、若い世代のCSRに対する意識は非常に高いですから、彼らの参加意識を培っていくために、ボトムアップの活動をどう育てていくかという問題もある。その両方をどう組み合わせて取り組みを進めるのかが大きな課題です。むしろそこは、カシオさんの取り組みから学ばせていただきたいですね。

木村 「CSR基本方針」では、五つの重点課題も掲げられていますが、これはどのように制定されたのですか。

藤崎氏 2010年、設置されたばかりだった我々CSR推進室、人事や法務、購買などのメンバーが加わって、社内横断的に制定したものです。ただ、当時はCSRとは何かという定義がまだしっかりと確立できていなかったこともあって、守りのCSRの部分など、少し「抜け」がある。具体的には、マネジメントサイクルの観点が欠けていると感じるので、ここは今後改定していきたいと考えています。

SDGsをどう捉えるか

木村 SDGs(持続可能な開発目標)についてもお話を伺いたいと思います。2015年に国連で採択されて以来、このSDGsが急速に社会の中で「共通言語化」していると感じていますが、御社ではどのような取り組みを進めておられますか。

藤崎氏 トップダウンとボトムアップ、双方での取り組みを進めていて、トップダウンの取り組みとしては、SDGsをいかに経営の中で重要なものとして位置付けるかをテーマに、役員レベルの座談会やフォーラムを開催してきたことが挙げられます。先日も富士通フォーラムで、国連開発計画や世界経済フォーラムからもゲストをお呼びして、「2030年のSDGs達成に企業はどう取り組むべきか」をテーマにしたシンポジウムを開催したのですが、「課題解決のスケールアップをいかに考えるか」ということがキーワードになりました。「いいこと」をすればそれでいいというのではなく、会社の規模などに応じた社会の期待や要請を踏まえた上で解決すべき課題を設定していくべきだということですね。特に当社の場合、従来の製品を作って提供する「プロダクトビジネス」から、サービスを提供することによって課題解決に貢献する「サービスビジネス」に移行している時期であり、その「課題」をどう捉えるかを考える時に、SDGsのような「共通言語」は非常に重要だと感じました。シンポジウムには当社の経営戦略担当の役員も登壇したのですが、彼も「世界100カ国近くに10数万人いる富士通の社員が同じ方向に向かって力を合わせていくにあたって、また外部の方々とのエンゲージメントの際にも、SDGsは重要な共通言語になる」ということを発言していました。

富士通株式会社CSR推進室 シニアディレクター 藤崎壮吾氏の写真です。
富士通株式会社CSR推進室 シニアディレクター 藤崎壮吾氏

木村 ボトムアップの取り組みはいかがですか。

藤崎氏 現状では環境本部などとも連携して進めています。環境マネジメントシステムの中で、SDGsに貢献していると考えられる取り組みを挙げるよう各事業部に呼びかけたり、マーケティング本部と一緒に社内プロモーションを進めたり、といったことですね。また営業・SE部門などを対象としたワークショップなども開催しています。

木村 SDGsにはご存じのとおり17の項目がありますが、特に重点目標として捉えていらっしゃるものはありますか。もちろん、御社の規模の企業であればほとんどが関係する内容になってくると思うのですが…。

藤崎氏 おっしゃるとおり、「関係する」とマークを付けようとすればほぼ全部に付けられてしまう。そのやり方は啓発という意味では悪いことではないのですが、会社自身がこの目標を目指して自己変革していこうというときにはあまり適さないのではないかと思います。目指すべきは、外からの期待と我々のやりたいこと、できることが合致する分野だと思いますので、考えられるのは、まず「食」に近いところです。現在でもAkisai(秋彩)という食・農クラウドサービスを約350の農業事業者に利用いただいているのですが、その他、食料廃棄をなくすために流通面で貢献できることもあるのではないか。このあたりから、SDGsの2番「飢餓をゼロに」に貢献していければと考えています。もうひとつ、3番の「すべての人に健康と福祉を」。我々は今、約7,000の医療機関や介護関係者とのネットワークをもっていますので、それを利用してできることがあるのではないかと思います。あとは、9番の「産業と技術革新の基盤をつくろう」は我々が本業でやっている作業そのものともいえますし、11番の「住み続けられるまちづくりを」は災害交通やスマートシティに関する取り組みも関連してくるかと思います。強いて重点目標を挙げるならそのあたりでしょうか。これについては、近くきちんとステートメントを出したいと考えています。

木村 御社がSDGsの取り組みをどのようにやっていくかということですか。

藤崎氏 その前提となる、富士通はSDGsをこう捉え、こう位置付けているという定義そのものですね。社内でも今、SDGsを自分たちの事業と結びつけて語ろうとする部門が増えてきています。それは、他人事だと思っていた課題を自分の問題として認識する第一歩ではあるのですが、そこで止まってしまって単なる「アピールの手段」になってしまっているケースもあるんですね。無理やりSDGsの文言を引っ張り出してきても、それが自己改革につながらなければ、流行り言葉を並べただけで意味のないものになってしまう。そこに注意を喚起するためにも、ステートメントが必要だと考えています。

木村 SDGsについては認知度そのものがまだ低いと感じますが、そこを向上させる取り組みはされていますか。

藤崎氏 SDGsをテーマとした役員クラスの座談会に加えて、ワークショップや社内講演会を開催していますが、社員が「これを自分たちはビジネスとしてやっていくんだ」としっかりと認識するには、さまざまな要素が組み合わさっていかないと大きな流れはつくれない。その意味で、いずれは経営方針の中にもSDGs的な要素を組み込みたいと考えています。昨年開催した社外取締役の座談会でも、そのお一人から「(SDGsへの取り組みについての)戦略的な全体像が見えない」という、非常に厳しいお言葉をいただきました。そうしたこともあってか、経営層の間では、「これはきちんと言葉にして述べていかなくてはならない」という意識は高まっていると感じます。

グローバルな規範を「翻訳」して伝える

CSR推進部 CSR推進室 室長 木村則昭の写真です。
CSR推進部 CSR推進室 室長 木村則昭

木村 2015年から統合報告書を作成されていますが、統合するにあたって、社内調整などでの困難はありませんでしたか。

藤崎氏 そうですね。最初に統合報告書の話が出てきた4〜5年前は、IRチームからは「投資家は誰も非財務情報についてなんて聞いてきませんよ、必要ないでしょう」という反応もありました。

木村 それをどうやって説得されてこられたのでしょう。

藤崎氏 「絶対にやったほうがいい」と言い続ける足場になったのは、IIRC(国際統合報告評議会)の存在で、当社はビジネス・ネットワークに加盟しています。私が勝手に思いついた話ではなくて、国際的には今これが当たり前で、やらなかったらあちこちから指摘を受けたり、やらないリスクもあるんですよ、だから検討くらいしてみたほうがいいのでは、と提案するところから始めました。これは統合報告書のときだけではなく、CSR活動全般について、ただ「部門としてやらなくてはならないこと」ではなく、ISO26000など「これはもう1レイヤー上のグローバルな、国内外のステークホルダーの要請なんですよ」といえる規範を基点として、リスクを示しながら説得するということを繰り返してきたといえるかもしれません。「グローバルな要請と、我が社の今の状態との間にはズレがありますよね、どこが違うのかを見ていきましょう」というと、分かってもらえることが多いんです。

木村 そうした「外の規範」を中に「翻訳」して伝えるのが、CSR推進室の役割ともいえるのでしょうか。

藤崎氏 そうかもしれません。やはり、人はわからないこと、自分にできないこと、そしてその二つが掛け合わさったことに対しては「やりたくない」「二度と触れたくない」となりがちです。まずは知ってもらうこと、そして「これだったらできそうだ」ということを増やしていくことが重要だと思います。統合報告書についても、かなり時間はかかりましたが、IRチームの中でも「CSR的な要素を報告書に入れることは結局自分たちの仕事にも役立つ」という発想の転換が生まれてきたようです。そこにいたるまでには、長期投資家の方などを交えた役員座談会も何度も開催しました。そうすると、回を重ねるうちに、当初は借り物の言葉を述べているだけだった役員も、だんだん自分の言葉で語りだすようになるんですね。おそらく、お客様などと話をしているときにも、以前はレーダーがなかったので素通りしていた言葉がすっと入ってくる瞬間があったと思うのです。そういうところまで行くと変わってきますね。

木村 なるほど。当社も統合報告書の発行を検討しているので、非常に参考になります。最後に、当社のCSRを外から見ていてのご意見、期待などをお聞かせいただけますか。

藤崎氏 「創造と貢献」をベースに、製品と社会とのつながりを基盤に積み上げられてきた活動の実績は、我々が申し上げるまでもなく素晴らしいと思いますし、ぜひもっと詳しくお聞かせいただきたいと思います。ひとつ、申し上げることがあるとしたら、カシオというブランドは世界的に知られていますし、デバイスというコアな強みをおもちですので、もっと異業種の企業や国連機関などと連携することで、今取り組まれているさまざまな活動をもっと外に幅広く発信していけるのではないかと感じます。それぞれに違う強みをもった企業や組織が組み合わさることで、可能性が広がるのではないでしょうか。

木村 本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。