気候変動への対応
考え方・方針
課題認識
近年、温室効果ガスの濃度上昇に起因するとされる気象現象の激甚化が起こっています。豪雨による河川の氾濫や土砂災害により、世界各地で人々の生活基盤や生命が奪われるなど、経済的損失も拡大しています。
こうした中2015年には、国連持続可能な開発サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められ、国連気候変動枠組条約の第21回締約国会議(COP21)では「パリ協定」が定められました。「パリ協定」では、世界の気温上昇を、産業革命前から1.5℃~2℃未満に抑えることを目標とし、その達成のために今世紀後半には世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることが掲げられています。
また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2018年10月に、科学的知見に基づいた特別報告書「1.5℃の地球温暖化」を公表し、産業革命前からの気温上昇を2℃未満ではなく、1.5℃に抑えることが強調されています。
さらに2021年8月に公開されたIPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書では、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。広範囲にわたる急速な変化が、大気、海洋、雪氷圏及び生物圏に起きている、とされています。
これを踏まえカシオは、未来に実現すべき社会のあり方を「低炭素社会の実現」から「脱炭素社会の実現」に変更し、パリ協定長期気温目標に準拠した長期目標として設定しました。
2021年4月には、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」※1提言に基づき、気候変動に関するガバナンスを強化するとともに、リスクと機会の分析に基づく戦略を策定し、その財務的な影響についての情報を開示、2022年にはシナリオ分析によるリスクと機会の洗い出しと影響評価を行いました。
さらに2024年には、カシオの考える未来に実現すべき社会のあり方を「気候変動への対応」に変更し、気候変動全般への対応を推進しています。
※1 TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures の略。気候変動がもたらすリスクおよび機会の財務的影響を把握し、開示することを目的として、金融システムの安定化を図る国際的組織の金融安定理事会(FSB)により設立。
カシオグループとの関わり
カシオグループに関連する温室効果ガス排出として、グループ活動にかかる直接排出(スコープ1)、グループ活動にかかる間接排出(スコープ2)に加え、原材料の調達や製造、物流、販売および、製品の使用や廃棄などその他にかかる排出(スコープ3)が挙げられます。これらの排出のうちスコープ3は、2024年度実績で全体の98.3%を占めています。
これを踏まえてカシオは、スコープ1および2に加え、スコープ3についても目標を設定し、「気候変動への対応」に向けた対策を実施してきました。
2020年には、温室効果ガス排出をより詳細に把握するとともに、客観的な指標に基づいて「気候変動への対応」を推進するため、温室効果ガス排出量の算定基準ならびに中長期目標を、科学的知見と整合したものへ見直しを行いました。
見直しを行った算定基準ならびに中期目標について、国際的なイニシアチブであるSBTi(Science Based Targets initiative)※2に認定を申請し、2021年4月に、申請がWell-Below 2℃(世界の気温上昇を産業革命前より、2℃を充分に下回る水準に抑える目標)に沿ったものであると認められ、認定を取得しました。さらに2021年12月には、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギー由来とすることを目指す国際的なイニシアチブRE100※3へ加盟し、目標の達成に向けて、さまざまな取り組みを推進しています。
※2 SBTi (Science Based Targets initiative):「パリ協定」の目標達成に向け、民間企業や各種団体に対して科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出量の削減目標設定を求めるイニシアチブで、国際NGOのCDP、WRI、WWF、UNGCにより運営。「SBTi」により「パリ協定」に適合した温室効果ガス削減目標に対し、「科学的な裏付けによる目標」の認定が与えられます。
※3 RE100:国際的な環境NGOであるThe Climate GroupがCDP(Carbon Disclosure Project)とのパートナーシップのもとに運営する、国際的なイニシアチブ。事業で使用する電力を再生可能エネルギー100%とすることを目指す企業で構成される。
グループ活動にかかる直接・間接的な温室効果ガス排出(スコープ1・2)
考え方・方針
カシオグループには、生産拠点の他、主に試験研究を行う技術センター、販売や保守、グループ全体の管轄などを行うオフィスなど、様々な拠点が存在します。各拠点での活動にエネルギーが使用され、これに伴う温室効果ガス排出が発生します。
これらはグループ拠点が燃料を使用する事などによる直接排出(スコープ1)および、他社から供給された電気をグループ拠点が使用する事による間接排出(スコープ2)を算定することによって把握できる事から、スコープ1および2に目標を設定し、グループ全体での削減を推進しています。
目標と実績
カシオグループでは、スコープ1およびスコープ2を対象に、実質的に排出ゼロとする長期目標と、長期目標達成のためのマイルストーンとして中期目標を設定し、削減活動を推進しています。
| スコープ2算出手法 | スコープ1+スコープ2合計目標 | |||
|---|---|---|---|---|
| 基準年度 | 目標年度 | 目標 | ||
| 長期目標 | マーケット基準 | - | 2050年度 | 実質的に排出ゼロ |
| 中期目標 | マーケット基準 | 2018年度 | 2030年度 | 38%削減 |
さらに中期目標をもとにしたのブレイクダウン目標を設定し、年度ごとの進捗を確認しています。
2024年度は、これまでに実施した再エネプラン契約や、PPAモデル導入をさらに拡大し、タイ生産拠点におけるPPAモデル導入、日本国内生産拠点の再エネプラン契約を行いました。 これにより2024年度時点で、中期目標値(2018年度基準で38%削減)を達成いたしました。
ただし今後の再エネプラン契約の維持や再生可能エネルギー電力証書購入にかかるコスト増加や、当社事業活動量の変化に伴うエネルギー使用量の変化にも注視が必要と考えており、中期目標は引き続き継続を予定しています。
評価基準 ◎:すべての目標達成、○:目標をおおむね達成、△:成果より課題が残る、×:進捗なし
| 目標 | 2024年度目標 | 2024年度実績 | 評価 | 2025年度目標 |
|---|---|---|---|---|
| [長期目標]カシオグループ全体の温室効果ガス排出量(スコープ1、2)を2050年度までに実質的に排出ゼロを目指す。 | 「マーケット基準」に基づき、グループ企業の温室効果ガス排出量(スコープ1、2)を2018年度基準で19%以上削減する | 2018年度基準で60%削減 | ◎ | 「マーケット基準」に基づき、グループ全体の温室効果ガス排出量(スコープ1、2)を2018年度基準で22%以上削減する |
| [中期目標]カシオグループ全体のマーケット基準の温室効果ガス排出量(スコープ1、2)を2018年度基準で2030年度までに38%削減する |
スコープ1およびスコープ2以外の活動にかかる温室効果ガス排出(スコープ3)
考え方・方針
カシオの事業活動に関連する、スコープ1およびスコープ2以外のバリューチェーンからの排出量を、スコープ3として、各活動カテゴリーごとに分類して集計しています。
2024年度は、スコープ3集計方法を、従来よりも実際の活動に近い形で集計結果に反映されるよう見直し、過去に遡って再集計しました。
再集計した結果をもとに、着目した部分には目標を設定し、スコープ3全体の削減を推進しています。
目標と実績
中期目標の基準年度である2018年度まで遡って再集計した結果、基準年度は、購入した製品・サービス(スコープ3カテゴリー1)に係る温室効果ガス排出が、スコープ3全体の72%を占める事に着目しました。
またカシオグループは、事業活動だけでなく、製品が環境に与える負荷の低減にも取り組んでいる事から、販売した製品の使用(スコープ3カテゴリー11)に係る温室効果ガス排出にも着目し、購入した製品・サービス(スコープ3カテゴリー1)および販売した製品の使用(スコープ3カテゴリー11)に対して削減目標を設定し、スコープ3削減を推進しています。
またこの目標をもとにしたブレイクダウン目標を設定し、年度ごとの進捗を確認しています。
| 目標の対象 | 基準年度 | 目標年度 | 目標 |
|---|---|---|---|
| カテゴリー1:購入した製品・サービス カテゴリー11:販売した製品の使用 |
2018 | 2030 | 30%削減 |
カテゴリー1(購入した製品・サービス)は、2020年度に一時的に減少が見られます。
これは、新型コロナウィルス感染症の影響が、2020年度実績に一時的に表れたものと考えられます。
カテゴリー1では、サプライヤーからの原材料購入に係る排出が最も多い事から、サプライチェーンへの対応を主要な施策として推進しています。
目標達成に向けたサプライチェーンからの情報収集を2021年度より開始しており、さらに2024年度に実施した再集計結果を踏まえ、今後の対応を推進していく予定です。
カテゴリー11(販売した製品の使用)については、2019年度以降、大幅な減少傾向が継続しています。
これは当社事業戦略変更に伴い、販売製品のうち、お客様の製品ご使用による温室効果ガス排出の特に多い製品群の出荷量が2019年度以降に減少傾向である事が背景と考えられます。
2024年度実績はブレイクダウン目標を達成し、中期目標の達成に向けた進捗が確認されました。
ただしカテゴリー1による排出が大部分を占めており、この部分への有効な対応が重要である事が確認されました。
また今後の当社事業戦略によってはカテゴリー11が大きく増加する可能性も考えられる事から、引き続きスコープ3全体の動向に注視しつつ、対応を推進していく予定です。
評価 ◎:すべての目標達成、○:目標をおおむね達成、△:成果より課題が残る、×:進捗なし
| 中長期目標 | 2024年度目標 | 2024年度実績 | 評価 | 2025年度目標 |
|---|---|---|---|---|
| 購入した製品・サービス(カテゴリー1)と、販売した製品の使用(カテゴリー11)による温室効果ガス排出量を、2018年度基準で2030年度までに30%削減する | サプライチェーン調査の集計および今後の対応を検討する。 | サプライチェーン調査を実施し結果を集計この集計。結果を踏まえて今後の対応をサプライチェーン担当部門と協議した。 | ◎ | サプライチェーン調査の集計の推進および、2024年度に協議した対応の実施。 |
※2025年11月25日更新