事業所の生物多様性保全
国内事業所の生物多様性調査
カシオでは、国内主要拠点の敷地内における生物多様性の状況を把握するため、2017年に外部専門機関である緑生研究所に依頼し、植物および昆虫を対象とした生物種調査を実施しました。その結果、確認された生物種の中から、環境省レッドリストに掲載されている3種類の絶滅危惧種(キンラン、ギンラン、コヒロハハナヤスリ)が確認されました。これらの植物が確認されたのは、研究開発、製品の企画・設計などを担う羽村技術センター(東京都羽村市)の敷地内です。
国内主要拠点の生物多様性調査結果
キンラン
ギンラン
コヒロハハナヤスリ
羽村技術センターは、東京都の羽村市と青梅市にまたがる「西東京工業団地」の一角に位置しています。この工業団地は、1960年代に国の政策と東京都の計画に基づいて造成され、1966年分譲が開始されました。カシオは、1979年に土地を購入し、羽村技術センターを建設して操業を開始しました。
2017年の生物種調査で絶滅危惧種が発見されるまでは、生物多様性の観点から注目していない事業所でした。一方で、カシオは、開発拠点として敷地内の緑地を長年維持管理してきました。その結果、絶滅危惧種が生育できる環境が形成され、生息域外保全の場として機能する可能性のある自然環境が育まれたものと考えています。
羽村技術センターでの保全活動
絶滅危惧種の確認をきっかけに、羽村技術センターでは社員有志による「羽村TC見守り隊」を結成し、昼休み時間などを活用して年間を通じた保全活動を行っています。
見守り隊では、確認された絶滅危惧種の生育状況を継続的に観察し、その変化を記録しています。以下では、キンランおよびギンランについて、2026年8月時点までの生育状況をまとめています。個体ごとの経過を把握するため、キンランは発見順にK1~K10、ギンランはG1~G5の識別番号を付しています。また生育状況は以下の記号により示しています。
(表の説明)
◎:結実 ●:開花後に結実不良または食害等により子房消失 ◇:成長するも開花まで至らず
▲:途中成長停止による枯死または食害等により地上部消失 ✖:発芽せず ―:未発見
注:K4は根本に別の地上部が成長しK4A・K4Bの2個体とカウント
K2A、K2Bは個体として消失したものと判断
【キンラン】
| 年度 | K1 | K3 | K4A | K4B | K5 | K6 | K7 | K8 | K9 | K10 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◇ | ◇ |
| 2025 | ◎ | ◎ | ◎ | ― | ◎ | ― | ― | ― | ― | ― |
| 2024 | ◎ | ◎ | ◎ | ― | ▲ | ― | ― | ― | ― | ― |
| 2023 | ◎ | ◎ | ● | ― | ● | ― | ― | ― | ― | ― |
| 2022 | ◎ | ● | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
| 2021 | ◎ | ● | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
| 2020 | ◎ | ● | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
| 2019 | ◎ | ◎ | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
| 2018 | ◎ | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
| 2017 | ● | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
【ギンラン】
| 年度 | G1 | G2 | G3 | G4大 | G4小 | G5 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026 | ◎ | ✖ | ▲ | ✖ | ✖ | ◎ |
| 2025 | ▲ | ✖ | ◎ | ✖ | ✖ | ◎ |
| 2024 | ◎ | ✖ | ● | ✖ | ✖ | ✖ |
| 2023 | ◎ | ✖ | ✖ | ● | ✖ | ✖ |
| 2022 | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | ✖ | ◎ |
| 2021 | ◎ | ✖ | ◎ | ● | ◎ | ― |
| 2020 | ✖ | ◎ | ▲ | ▲ | ― | ― |
| 2019 | ▲ | ◎ | ◎ | ● | ― | ― |
| 2018 | ● | ● | ― | ― | ― | ― |
| 2017 | ● | ● | ― | ― | ― | ― |
羽村技術センターで確認されているギンランはこれまでの観察から早ければ1月頃、キンランは3月頃に地上部の発芽が見られます。いずれも広葉樹の落ち葉が堆積しやすい場所で発芽が早い傾向があり、これは落ち葉の分解によって発生する熱や断熱効果が影響しているものと考えています。
一方で、そのような場所は周辺より地温が高くなることから、ダンゴムシなどの活動も活発となり、発芽直後の芽が食害を受けやすいことが分かってきました。そこで見守り隊では発芽シーズンが近づくと落ち葉を除去するかどうか慎重に検討し、発芽を確認した個体については、園芸用の粘着シートを株元に筒状にし設置する対策を行っています。
これは、成長点が食害を受けると、その年の成長がほとんど見られなくなることを過去の観察から確認しているためです。現在は、この対策によって一定の食害防止効果が得られていると考えています。
1月に発芽したギンランに設置した粘着シート
季節の推移や成育状況を踏まえ、見守り隊では、概ね以下のような流れでキンラン・ギンランについての保全作業を実施しています。
1月 | 前年度種子の播種(種子スティック法) |
2月 | 地上部発芽の観察 |
3月 | ダンゴムシ等食害の警戒対応 |
4月 | 成長記録/社内情報共有 |
5月 | 子房肥大状況観察/鳥獣害警戒 |
6月 | 子房肥大状況観察/鳥獣害警戒 |
7月 | 子房肥大状況観察/鳥獣害警戒 |
8月 | 子房肥大状況観察/鳥獣害警戒 保全対象種の支障となる外来種等の除去 |
9月 | 子房肥大状況観察/鳥獣害警戒 |
10月 | 子房肥大状況観察/鳥獣害警戒 |
11月 | 採種・社内情報公開 |
12月 | 種子保存 |
キンランに関して2026年の特筆すべき成果は、2017年の観察開始以降地上部が出現していない地点に新たに合計5個体の地上部が出現したことです。そのうちの1個体は2024年から播種(種子スティック法による)を実施している範囲内であり、播種成功であれば喜ばしいところですが、意外にもそれ以外の4個体は播種を実施していない地点での地上部の出現でした。このため、播種成功を確定するには疑問が残る結果となりました。いずれにしても、2017年の発見以降、毎年新個体の出現をくまなく確認していたエリアでの地上部の出現であり、いかなる要因が新個体の地上部出現につながったのか、来年以降も観察と考察を継続します。
播種実施範囲内でのキンラン新個体出現地点
播種未実施地点からのキンラン新個体
なお、毎年実施している人工授粉ならびにネット掛けですが、年を追うごとに作業の習熟もあり、外観からの印象ですが子房の肥大も当初より顕著になっているようです。2026年も十分な種子の確保が期待できるため、種子スティック法による播種を実施する予定です。
キンランの子房と種子
キンラン種子の拡大写真
種子スティック製作
播種(種子スティックの埋設)
現在、羽村技術センターでは、建設から40年が経過した社屋の老朽化に対応するため、敷地内で建て替え工事を進めています。この建て替え工事では計画段階から絶滅危惧種の保全区画を設定し土地利用を進めています。
保全区画でのキンランの人工授粉
2022年以降は、猛禽類のツミが3年連続で敷地内で営巣し、雛の巣立ちも確認されました。一方、2025年および2026年は、頻繁な飛来が確認されたものの、営巣や雛の巣立ちには至りませんでした。
なお、2026年は敷地内で交尾が観察されています。
敷地内で交尾するツミ
新社屋の完成は2027年秋を予定しています。キンランなどの絶滅危惧種が自生する4か所のエリアのうち、3か所については改変を行わず保全区画として維持する計画です。また、残る1か所については、キンランの移植が極めて難しいとされる中、学術文献を参考にしながら、共生する樹木とともに移植する手法に挑戦する予定です。
このような対応は、ネイチャーポジティブに向けた大規模な自然の回復は期待できませんが、長期的に継続することで、生育域外保全の場としての自然の維持に寄与することが期待できるため、国内拠点で蓄積したこれらの取り組みを今後も推進していく考えです。