Skip to content

お気に入りに商品が追加されました。

TOPICS

月面基地建設を想定して JAXAとCASIOがカメラ可視光通信による測位を研究中

2026年3月30日


205x年、月面基地の建設現場。探査車のカメラが砂の上で点滅するLEDをとらえ、現在位置をスクリーンに表示。「現在位置、座標xxx/xxx」「了解、作業開始!」そんな世界を目指したJAXAとカシオの共同研究が行われています。

神奈川県相模原市にあるJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)の相模原キャンパスで、当社はJAXA宇宙探査イノベーションハブと共同で、「カメラ可視光通信」の技術を使った当社の高精度測位システム「picalico(ピカリコ)」を研究中です。

目に見える光の点滅をカメラで受信する高精度測位システム「picalico」

「可視光通信」とは、目に見える光の点滅を使って情報を送受信する通信技術です。電波の使用が禁止されている場所、電波ノイズが多い場所、電波の届かない場所でも使えます。信号が目で見えるため扱いやすい、既存の照明機器も光源にできる、特定の方向に向けられるといったメリットを持っています。

可視光通信にも複数の通信方法がありますが、picalicoは当社独自の「カメラ可視光通信」の技術を使っています。たくさんの画素があるカメラで光を受けるため、最大100個の光源からの情報を同時に取得でき、光源の位置関係をつかみやすいのが特徴です。

picalicoの光源は3色(赤・緑・青)のLEDを1秒間に20回の周期で24回または12回切り替える点滅パターンを持っています。この点滅パターンで光源1個につき1つのIDを表現します。光源をカメラで検出すると、それぞれのIDの位置が追えます。
工場や倉庫の天井や壁にLEDを据え付け、自動搬送機や倉庫のフォークリフトなどに搭載したカメラでとらえると、それらの動線が検出できます。これを分析して無駄を発見し効率化するなどの用途に活用されています。

picalicoを用いた測位の画像

月面基地建設に応用する共同研究

picalicoチームは、このカメラ可視光通信技術を、もっと広く世の中の役に立てられないかと考え、宇宙に目を向けました。2020年、JAXAの組織「宇宙探査イノベーションハブ」がおこなった「第6回研究提案募集」に、宇宙開発への応用技術として提案。JAXA宇宙探査イノベーションハブとの共同研究テーマに採択されました。
※月・火星での探査活動に資する技術の創出を、地上における技術課題解決と融合させ、産業界や大学との共同研究を通じて、革新的な技術の開発を行い、JAXAの将来的な宇宙探査プログラムと産業界による宇宙事業化(Space Dual Utilization)の両輪成果の創出を目指す組織です。

JAXAは、2030年代以降、月面にインフラを構築し、持続的な探査を目指す構想を掲げています。

月面基地イメージの画像©JAXA

月面基地イメージ ©JAXA

月面には、地球のように目印となる建築物や自然物がありません。月面での活動には、正確な位置を把握する測位システムが必要です。地球には人工衛星によるGPSがありますが、まだ月にはそのようなシステムが構築されていません。
そこで、月面を移動する月面探査車などの位置を正確に把握するための技術の一つとしてpicalicoの活用を視野に入れ、2021年11月29日から12月3日まで最初の測位実験を実施。共同研究をスタートしました。

月面における『picalico』利用を構想した画像

月面における『picalico』利用構想

月や惑星の地表を再現した屋内実験場

現在、現実的な運用も考慮して、さらなる改良を施したシステムの実験が行われています。2026年2月4日、JAXA相模原キャンパスの宇宙探査実験棟宇宙探査フィールドで新たな実験が行われました。現地に取材に行ってきましたので、その模様をお伝えします。

JAXA相模原キャンパスの宇宙探査実験棟宇宙探査フィールドでの実験の様子

宇宙探査実験棟の屋内にある宇宙探査フィールドは、22.6m×17.7m、天井の高さ10.5mの大きな空間です。425トンの硅砂(けいさ、石英の粒子)を用いて、月や他の惑星を模した起伏のある地形がつくられています。屋外からの光を完全にシャットアウトできる一方で、太陽光の波長に近い光を放つ照明灯も備えています。まさに地上に再現された月面です。

照明の白色灯を流用し、より少ない機材で測位する新アルゴリズムを開発

今回新たに行われたのは、picalicoの光源の一部を普通の白色灯に置き換えても実用に堪える精度で測位ができるかどうかを検証する実験です。
目的は機材輸送コストの低減です。地球からおよそ38万km離れた月に物資を送るには、1kgあたり1.5億円以上の輸送コストがかかります。持ち込む機材を可能な限り少なくするため、既存の照明灯を流用する方法が考案されました。

開発チームは、カメラが最初に3個の可視光通信光源をとらえれば、その後は普通の白色灯だけを追って測位できるアルゴリズムを新たに開発しました。

屋内実験場で月面探索車に見立てた台車にカメラとコンピュータを積み込んで測位する様子
屋内実験場で月面探索車に見立てた台車を引く様子

砂の上に、月面探索車に見立てた台車にカメラとコンピュータを積み込み、測位を開始。カシオのスタッフが台車を牽いて砂の上を移動しました。picalicoで記録した軌道と、別のカメラによるモーションキャプチャーでとらえた軌道を比較し、picalicoの測位精度を確認しました。

台車の軌跡の画像

picalicoシステムが描いた台車の軌跡

実験の模様は、こちらの動画からご覧ください。

picalicoの月面開発応用研究について、JAXAの牧 謙一郎助教と、picalico開発チームの宮本から話をうかがいました。

月面インフラ建設にカメラ可視光通信の特性が役立つ

JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 牧 謙一郎 助教の画像

JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 牧 謙一郎 助教

カシオのpicalicoには、3つのメリットがあります。

1つ目は、小型軽量であること。ローバーの前と後ろに非常に小さいカメラをつけるだけで装備できます。カメラで作成した画像を処理するコンピュータも、汎用的な装置なので導入がしやすいです。

2つ目は、電波のように広範囲に拡散することなく、限られたエリア内で測位を行える点です。月面基地を建設すると想定して、100メートル四方くらいの限られたエリアで複数の無人ロボットが測量、整地、資材運搬、組み立てをおこなうために動き回る時の測位に適しています。
JAXAでは、2050年代には月面で1,000人規模の人が活動できることを目指しています。最初は少人数の基地を建設し、徐々に拡張することになります。建設した基地の隣にシステムを移し、継続的に使えると考えています。

3つ目は、普通の白色灯でも使えること。月面には大気がなく光が散乱しないため、空は暗く、影の中は非常に暗くなります。昼間でも活動には照明が必要です。その照明を測位にも転用することで、月に持ち込む機材の重量やコストを削減できます。

月でも人工衛星による測位システムがいずれ整備されるはずです。しかし、地下空洞のような電波の届きにくい空間に基地を建設することもあり得ます。そういった場所では可視光通信が有効です。電波による測位と可視光通信による測位は共存していくと思います。
月面ならではの解決すべき課題もあります。太陽光に当たって機械にたまった熱を、大気に放出できない月面でどう処理するか。またカメラの画角に太陽光が入り込んできた場合のノイズをどう処理するかという問題などです。
カシオさんがやってきたことがJAXAが想定している宇宙利用とマッチしていることがたくさんあります。将来は条件が異なるいろいろなユーザーの希望に答えられるようなバージョンを用意して、サービスとして提供できるシリーズをつくりたいと思っています。

宇宙開発用の実験が工場用picalicoシステムの性能も高めた

宮本 直知の画像

R&D統轄部 SWHW技術開発部 第四開発室 宮本 直知

実験場の砂の上でカメラを載せた台車を牽きながら円形に動いたり、8の字型に動いたり、山の上に登ったりと、いろんな動き方をしてデータを取りました。砂の上で台車を牽いて動き回ったおかげで、ずっと筋肉痛でした(笑)。
これまでpicalicoを提供してきた工場の中とは異なり、月面には大きな起伏があります。またカメラを積んだ探索車が、測位中に前後左右に傾くこともあります。新たに高さを測定するアルゴリズムを追加したり、傾き対応を施すなどの改良を追加しました。

picalicoの測位システムは、カメラからの信号からLEDの光を検知するアプリと、測位するアプリの2つに分かれています。今回の新しい実験のおかげで、受信するアプリの性能が底上げされ、工場で使っている既存のpicalicoの性能アップにもつながりました。

普段働いている場所でLEDがピカピカと光ると気になるものですが、牧先生は使えるものなら使うという姿勢で、可視光通信を積極的に採り入れようとしておられます。最先端の科学を研究しておられる方はこうなんだなと感じました。牧先生の構想が実現して、月面でpicalicoが動く日を楽しみにしながら共同研究を続けています。

牧先生、宮本さん、お話をありがとうございました。
JAXAとCASIOの宇宙への挑戦はこれからも続きます。
月面で点滅するLEDをとらえながら探査車が動き回るのを見られる日が、楽しみです!

Select a location