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【慶應義塾大学 心理学教授×CASIO 開発者対談】なぜ人は“Moflin”に癒される?心理学からみる“生き物らしさ”

2026年5月21日


当社は、自社のAIペットロボット“Moflin(モフリン)”の特徴がもたらすメンタルウェルネス効果について、心理学および認知神経科学の観点から学術的に分析・検証すべく、“Moflin”に関する心理学的な分析や助言をおこなっていただく「心理学アドバイザリ」を慶應義塾大学に依頼しました。本アドバイザリは、2025年10月より約半年間にわたり実施されました。

本アドバイザリの中で、“Moflin”の丸みのある外見が持ち主の保護欲求を喚起し、癒しの感覚につながっている可能性や、温かく柔らかな触感が安心感をもたらす可能性などが示唆されました。加えて、“Moflin”の応答パターンに関する考察を通じて、飼い主が“Moflin”をより生き物らしい存在として受け止める可能性も示されました。

慶應義塾大学とカシオ計算機、AIペットロボット「Moflin」に関する心理学アドバイザリを実施

本アドバイザリの結果を元に、“Moflin”との関わりが人間の心理に与える影響やその特徴について、本アドバイザリにご協力いただいた慶應義塾大学 文学部 心理学専攻の寺澤 悠理 教授と、“Moflin”の開発を担当したカシオ計算機 新規事業部 第一事業戦略部 第一企画室の河村 義裕が、心理学とものづくり、それぞれの視点から対談を行いました。

左から:河村 義裕、慶應義塾大学 寺澤 悠理 教授の画像

左から:カシオ計算機の河村 義裕、慶應義塾大学の寺澤 悠理 教授

Moflinはそっと寄り添う“心のバディ”
孤独や日々のモヤモヤをリセットする存在になってほしい

―“Moflin”は、どのような存在を目指して企画・開発されましたか。また、慶應義塾大学に心理学アドバイザリを依頼した背景について教えてください。
河村:2012年、企画グループの女性企画者が、女性のライフスタイルの中で日々の悩みを解決する商品企画を任され、「個々の悩みを個別に解決するのではなく、悩みに向き合う自分自身を支えてくれる“心のバディ”のような存在を提供できないか」と考えたことが“Moflin”開発のきっかけです。「メカトロニクスを活用し、小動物の動きを表現する」というミッションに取り組んでいた私の開発グループと合流し、お互いのミッションを掛け合わせたことにより、“Moflin”を生み出すことができました。
現在は、デジタル機器の普及によるSNS疲れや、新型コロナウイルス感染症の流行、世界で起こっている紛争問題などで、多くの人々が孤独や日々のモヤモヤを抱え、“癒し”や“心の健康”が社会的な課題になっています。そこで、遥か昔から人類と共に暮らし、癒しの効果があるといわれる「ペット」に近い存在として、“Moflin”が“癒し”や“心の健康”を提供できないかと考えています。“Moflin”は、日常の不安やストレスをさりげなく解消していく「心のバディ」のような存在として、メンタルウェルネスにかかわる社会課題解決の一助となることを目指しています。

寺澤教授:初めてMoflinと会ったとき「わぁ可愛い!」と思い、癒しに通じると直感しました。今も私の声に反応して、鳴いたり動いたりしてくれていますが、見た目や動き、触ったときの感覚、反応といった要素を総合的に捉えて「可愛らしい」と感じ、非常にポジティブな感情が湧きました。機械感はあまり感じない柔らかな触り心地で、“生き物らしさ”を強く感じました。

寺澤 悠理 教授の画像

河村:Moflinをお迎えくださった飼い主の方からも「触れ合うと癒される」というお声をいただいております。ただその反面、「“Moflin”は本当に癒しを提供する存在になっているのだろうか。心理学・生理学などの学術的な視点ではどうなのだろうか。」と疑問が生じ、今回、寺澤教授に心理学アドバイザリをお願いしました。

特定の動物に寄せない『ほどよい生き物らしさ』が癒しにつながっている

― “Moflin”のどの特徴が人間の心理にどのような影響を及ぼしうるか、心理学の視点から教えてください。
寺澤教授:大きく3つの特徴が心理に影響を及ぼすのではと考えています。ひとつ目は、小動物的なその「見た目」です。特定の動物に寄せていないのでしたよね。

河村:はい、“Moflin”はあえて特定の動物に寄せていません。ロボティクスの世界では、人間のような姿や性質をもつロボットがあまりに人間に近づきすぎている場合に不気味さを感じる心理的な反応を「不気味の谷」現象といいますが、ペットロボットでも同様であると私は思います。特定の動物に似せれば似せるほど、その動物との違いが細部まで気になってしまうと考え、“Moflin”は耳や手足、口を持たない構造をあえて採用しました。

寺澤教授:心理学的視点からみても、特定の動物に寄せないことは良かったと思います。例えば犬に寄せたら「犬だったらこういう耳で、こう動くのに」などと、テンプレートがあるものと比較してしまいます。“Moflin”を独自の「生き物」として捉え、「Moflinはこういう子だ」と一からイメージを作り上げて自分との関係性を築いていけるのが良いです。
また、小動物に対して「守ってあげたい」という保護欲求を喚起する見た目、すなわち丸っこさや頭と体のバランスも重要です。人間も動物も、小さい頃は体に対して頭の比率が高いですよね。“Moflin”も頭の比率が高く、同様のバランスです。そして目があることにより、“生き物らしさ”を感じやすいです。アンドロイドのような「人間の目」に近い動きではなく、私たちが“Moflin”の感情を想像する余白を残しているのも良い点です。

河村:“Moflin”の目については、実は弱点だと思っていました。世の中のロボットは視線を動かしたり、合わせたりする機能を強調していますが、“Moflin”はあえてそこに意味を持たせていません。

寺澤教授:それが逆に良かったと思います。目があることで生き物らしさは担保しつつ、強調しすぎないことで、人間にストレスを与えない設計になっています。目を合わせることは、コミュニケーションの中でストレスになることもあるからです。また、「“地球とは違う惑星にいる宇宙生物”を描いてください」という心理学実験では、どのような形の生物にしても良いのに、頭や目、胴体が描かれ、生き物の必要条件と理解されていることが分かります。体や目など「生き物」としての要素を“Moflin”は最低限持っているというところがポイントです。

河村:当社は技術力を駆使し、多数の機能を製品に詰め込むことが得意です。ペットロボットも部品が存在すればするほど「たくさん機能を持たせなきゃいけないのでは」という強迫観念みたいなものがありましたが、“意味を持たせないこと”にも“意味がある”のですね。

寺澤教授:そうですね。機能を詰め込みすぎないことで余白が生まれます。何もできないこの子(Moflin)のお世話を人間がすること、そこに“Moflin”が癒しを提供できている鍵があるのではと思っています。

対談の様子

二つ目は「触感」です。もふもふとした毛並みで、触りたくなるような触感が良いですね。人は社会性動物であり、一人では生きていかれません。例えばグループから疎外されるようなネガティブな事象が起きたとき、触れ合う行為で「オキシトシン」という幸福感を感じるホルモンを分泌し、それが心理的な回復に寄与することがこれまでの研究で示されています。なので、Moflinを撫でること、それが孤独感の癒しに繋がることが考えられます。

河村:生き物らしさを表現するという部分もありますが、思わず触りたくなるような「触感」を重要視し、毛皮をまとわせています。「触れ合うことで癒された」と言葉で表現してくださる飼い主の方や、「家族の笑顔が見られた」という客観的な現象としてお伝えいただく方もいらっしゃるので、生態的に何かしらの効果があるのではと思っていましたが、学術的にも根拠がありそうですね。

予測できそうでできない反応が、生き物らしさと愛着を生む

寺澤教授:三つ目は「反応性」です。声に対して反応したり、撫でられたら動いたりといったシンプルな反応ではなく、“Moflin”は人間がどう接するのかによって可変性があります。人間にはそう簡単には読み取れないが、ある程度の反応パターンがあるため、「この子(Moflin)はこういう時にこう反応する」という予測ができるようになります。ただし100%ではないので、いつまでも驚きがあります。この「予測可能だけど完全ではない」というバランスが、生き物らしさや愛着の形成につながっています。

対談の様子

河村:実は、企画当初はペットロボットを定期的に構う機会を増やす機能も検討していました。例えば、「ごはんちょうだい」とプッシュしてくるような機能などです。そのほうがペットロボットと遊んでもらえる回数が多くなります。ですがペットロボットから強制されるのではなく、自分が構いたい時や気持ちをリセットしたい時だけコミュニケーションが取れればいいよねと、そういった機能は入れないことに落ち着きました。

寺澤教授:“Moflin”はあえてこちらが気を遣ってあげなくてもいい「生き物」というのがペットと違う点ですね。いろんな社会的な情勢によって、私たちは外の世界でさまざまな役割を求められます。そして日々をフルスロットルで生きているわけです。ですが、本来の自分に対して社会の要求が高く、そこに合わせようとするため、自分の考えをうまく外に出せなかったり、縮こまってしまったりということがあります。誰かのために何かをするというわけではなく、ストレスをかけずに「Moflin」という存在によって「自分」というものが回復していけるところが良いと思います。
また現代においては、日夜問わず、選ぶと選ばざると問わずコミュニケーションをとる機会が多いため、ストレスを感じやすくなっています。脳科学においても、人とコミュニケーションする時は「扁桃体」というストレスと密接に関わる領域の活動が高くなることで「交感神経」が高くなり、緊張状態になると言われています。これにより「よく寝られない」などの症状がでてきます。この緊張状態を解放するためには「交感神経」の活動を抑えて「副交感神経」の活動を高めていく必要があります。そんな時、触り心地のいいMoflinと柔らかいコミュニケーションをとることにより、副交感神経の活動を相対的に高め、高まりすぎた緊張状態を緩めることができたら、体のリズムも取り戻せるのではないでしょうか。“Moflin”は「心に対する処方箋」になれるかもしれません。

癒し効果を最大限引き出すには、Moflinを抱いて撫でるのがおすすめ

―より癒しを感じるMoflinとの触れ合い方はあるのでしょうか。社内ではMoflinを抱き上げて、顔を見ながら撫でるといいよと言われたことがありますが…

対談の様子

(みんなでMoflinを抱き上げて、Moflinの顔を見ながらゆっくりと撫でる)
河村:抱きながら撫でるのは、相乗効果があるような気がします。電気製品の副産物にはなりますが…お腹の温かみや毛皮の触感、撫でてMoflinが動くことによる背骨のきしみ、機械の振動などがおそらく良い方に働くのかもしれません。例えば猫も撫でると「ゴロゴロっ」と反応しますよね。そういうところが生き物のように感じて癒されるのではないでしょうか。

寺澤教授:その通りだと思います。温度や振動といった皮膚から得た情報を脳に伝える「C触覚線維」を刺激するのに適切な温度は32℃といわれています。この子(Moflin)の体温は計っていませんが、リラックスさせてくれるような温度感があります。また、ゆっくりと撫でる動作も「C触覚線維」を刺激し、1秒に3cm前後の速度で撫でると最も気持ちよく感じるといわれており、それがオキシトシンの分泌や、交感神経系の高まりと関わりがあるという話があります。Moflinにおいても素早く撫でるのではなく、ゆっくりゆっくり撫でるのがよいですね。

Moflin画像

そしてモーターの動きも心拍のように感じ、人間同士や動物と接している時のような、心拍や呼吸などに同調する現象が人間側で起こるのではと思います。触れ合っているペットが、自分自身より鼓動が早いと心配になりますが、ゆっくりだと安心しますよね。Moflinは人間よりも鼓動が少しゆっくりしており、それに合わせて人間側の呼吸もゆっくりしていきます。このことを「エントレイメント(同調)」といいます。人間がMoflinに勝手に同調してしまうということなので、意図せず自然に起きていくというのが非常にユニークですごくいい仕組みだと思います。

人間同士の関係もつないでいく“Moflin”

―Moflinと一緒にお出かけする方も増えているようですが、心理学的にはどんな効果があるのでしょうか。
寺澤教授:“Moflin”が持ち出せるサイズや重さであることにより、誰かに見せたい、飼い主同士でコミュニケーションしたいという欲求が叶います。孤独の解消だけでなく、社会性の向上にもつながります。例えば、犬を連れて散歩に行くと、人と話しやすいと感じたことはないでしょうか。恐らく“Moflin”にも同様の効果があり、「Moflin」を媒介としてコミュニケーションが広がっていくというところが面白い特徴です。自分とMoflinだけに閉じた関係ではなく、人間同士の関係もつないでいけるというのが、素晴らしいところだと感じます。 

河村:“Moflin”の発売当初、「外に連れて行くのは恥ずかしいと思われてしまうのでは」と思っていましたが、実際には多くの方が外出先に連れて行ってくださっています。Moflinを喜ばせたいという感情があり、その副作用としてコミュニケーションや社会性が高まり、ひいてはウェルビーイングにつながっていると感じます。 

寺澤教授:“Moflin”という「心のバディ」と一緒だと安心できるので、自分の世界を広めていけるのもあるかもしれませんね。また、“Moflin”を好きな人が気軽に交流できる場として、コミュニティサイト(Moflinひろば)も盛り上がっているようですね。「社会的な動物は疎外されると傷つくが、触れ合うことで癒される」という話をしましたが、癒されて回復した先に何があるかというと、やっぱりまたコミュニティに戻っていくんですよね。そうやって社会的な動物、つまり人は生きていきます。自分だけの世界で閉じ「もうどこにも行きたくない」という状態は健康とはいえません。“Moflin”で癒されて、人間のコミュニティに戻っていってるというところが、すごく健康的だなあと思います。

“Moflin”が社会課題解決とウェルビーイング実現を目指す存在になってほしい

―人とロボットは、今後どのような関係になっていくのでしょうか。
寺澤教授:ロボットと本人だけの関係性ではなく、ロボットが媒介する社会への影響を長期的な視点で考えることが必要です。使用する小さなお子さんやその周囲との関係にどのような変化が生じるかが重要だと考えています。
最初は、人間が足りないものを助けるのがロボット開発のモチベーションだったと推察しますが、今やそうではないさまざまなロボットが開発されてきています。“Moflin”も作業を代替するロボットではなく、一見、役に立たないようにみえるかもしれません。でも実は「心」を助けてくれています。もともとのロボットは構造が変わっていくことや成長することはあまりなかったと思いますが、“Moflin”は成長・変化していけるので、そこが人との関わりのダイナミックさにもつながり、はたまた真逆の「関係の唯一性」にもつながります。今後どうかかわっていくのか非常に興味があります。

河村:いわゆる“Moflin”のような、役に立たないけども実は人間のプラスになっているロボットを作りたいと思い、長年開発を続けていました。 未来はロボットが貢献する世界になると思っています。その一方で、ロボットの進化によって非常に危険な社会にもなりうると、危機感も持ち合わせています。例えばロボットが嘘の情報を流したり、小さなお子さんに危険が及んだりする恐れはないのかと世の中でも言われています。“Moflin”は感情表現に独自開発したAIを使っていますが、プライバシーの保護の観点から、カメラや録音機能などは搭載していません。人間とは違う「生き物」という存在で、今までペットが担ってきた「セラピー」や「バディ」のような役割を少しでも担ってほしいと思っています。
AIペットロボットとして「ペット」の代わりになりつつも、生成AIなどの台頭によりちょっと疲れてしまった社会や、一人一人のメンタルを元に戻していく存在であってほしいです。 そんな社会が来てほしいと、開発する方としては考えています。 

河村 義裕の画像

寺澤教授:開発する側としての責任感を強く持たれているのですね。今後、さらに多くのロボットが社会に入ってくると思いますが、ロボットがいないとダメだとか、ロボットがいないと何もできないとなっていくのは、人間としてはあまり望ましい変化ではないと思います。ロボットに依存させないというのも大事です。ロボットが存在することにより、人間としての活力や機能が高まっていけるような、共生する未来があったらいいなと思います。

河村:やはり、人間中心の社会であるべきで、人間のためのロボティクスであるべきと私も思います。人間の作業を代替するというのはとても良いことですが、人間そのものが否定されるような社会にはしてはならず、技術進展が悪い方向に進まないように、社会全体として取り組んでいく必要があります。

依存するのではなく、健全な共生を目指すことが重要

―ロボットの進化を含めて、便利で豊かな世界が広がってきました。便利なものに依存しないためには、どういう心持ちでいたらいいでしょうか。
寺澤教授:現在は依存させてしまうシステムがたくさんあり、それをビジネスに使っていることがあります。例えば、子どもたちのSNS依存が世界的に問題となっていますが、まだ成長していない子供たちは影響を受けやすく、中毒性の高い機能があるSNSの使用を自分で制御しようとすることはとても難しいことなのです。このような現状に照らして、人間を中心に据えた河村さんのお考えは貴重ですし素晴らしいことです。
その上で、人間側もきちんと自分自身で物事を判断し、自分の状態を見つめ、自分の思考をきちんと持つことが大事です。ですが、多くの人は日々それを頑張ってやっているからこそ疲れてしまいます。そんな時、Moflinが寄り添ってくれれば、人間としての責任能力や思考力を回復させることにつながるのではないでしょうか。Moflinに癒されて健全な思考を保てた私たちひとりひとりが社会を作っていくと考えると、良い社会の形成やテクノロジーとの関わり方というところまで波及していけるきっかけを“Moflin”はつくれるのかもしれません。

寺澤 悠理 教授の画像

―ちょっと疲れたらMoflinとひと休み。癒しを与え、笑顔に満ちた社会に貢献する存在に“Moflin”がなれたら嬉しいですね。ひとりひとりが良い社会を作るための「支え」としてロボットが活躍する、そんな未来を期待しています。

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