
TOPICS
カシオ計算機が2026年5月に発売したオープンイヤー型ヒアリングアシストイヤホン「earU(イアユー)」。「補聴器を必要とするほどではないけれど、最近ちょっと聞き取りづらい」という悩みを持つ方々のニーズをくみ取った機能はもちろんのこと、耳をふさがずスタイリッシュなデザインもご好評いただいています。実は見えない部分にこそ、開発チームの技術的な挑戦と工夫が詰まっています。今回は、製品化を支えた3名のエンジニアに、技術的なこだわりポイントを解説してもらいます。
左から:新規事業部 第一開発部 野崎 貴大リーダー(機構設計担当)/新規事業部 第二開発部 森山 鉄平リーダー(回路設計担当)/品質統轄部 第二品質保証部 菊地 綾リーダー(品質保証担当)
―耳を塞がない形状を実現する上で、最も苦労されたのはどの部分でしょうか?
野崎:最大の課題は、ドライバーユニット(スピーカー側の筐体)の小型化と、耳甲介腔(じこうかいくう)という耳の凹みへのフィット感の両立でした。開放感を保つためにはドライバーユニットを小型化し、外耳孔を塞がないことが必要ですが 、同時にしっかりとホールドする安定性も求められます。この相反する要求を満たすために、0.1㎜単位での調整を繰り返しました。
また、音を集める2つのマイクの実装位置も重要でした。「魅せるデザイン」というコンセプトを守りながらマイクの配置を考えましたが、最適な音響性能が得られる位置に置くと、内部構造や組立性に大きく影響し、量産性を確保することが難しくなります。パーツが最適な位置から動かないようにする構造を新たに追加したり、量産時の組み立てやすさも考慮して、細部まで工夫を重ねました。
ヒアリングアシストイヤホン「earU」
―1日中使える製品を実現するために、どのような工夫をされたのでしょうか?
森山:最大の課題は、小型化と省電力の両立でした。earUは非常に小型なため、搭載できる電池も限られています。ソフトウェアチームと協力しながら、無駄に電力を消費している部分がないか、試行錯誤を重ねました。
最初に試作したテストボードは最終製品の何倍ものサイズがありました。マイク2つとスピーカーを実装した必要最低限の機能確認用のもので、この段階では3Dプリンターで出力した耳形を実際につけて動作確認を行いました。次に、耳につけるサイズに落とし込むため、段階的な小型化と省電力化を進めるため、どの部分をより小さくできるのか見極めを進めていきました。結果として、開発初期のテストボードから、サイズと消費電力の両方を大幅に削減することができました。
開発初期のearUテストボード(試作用基板)
―音響面ではどんな工夫をしていますか?
森山:ハウリングを起こさないよう、音響処理に加えて、装着センサーが耳に装着したことを検出してから集音を開始するようにしています。
ただし、耳の形は人によって異なるため、装着センサーの位置や、「装着した」と判定できる最適な位置の設定には苦労しました。当初は全く異なる位置に配置していましたが、数十人の被験者データを分析しながら、最適な位置を決定していきました。
開発でマイクやセンサー位置調整にも使用した試作機
―安全性を担保するため、特に注力された点は何でしょうか?
菊地:earUは新しいカテゴリーの製品であるため、試験項目の設定から始める必要がありました。そこで、時計も常に身につけるものなので、試験規格も近いのではと考え、時計事業部に相談して、人工汗を使った試験を取り入れました。
また、数十人の被験者の耳を専用に作成した測定機で測定し、人による形のばらつきを詳細に分析しました。そのデータから、どの程度の隙間を設けるか、どの程度の圧力で挟むと痛くなりにくいかという「最適解」を導き出すまでに、数か月かかっています。
イヤーピースのサイズ設定も重要でした。万が一脱落した場合でも、耳の奥まで入っていかないサイズにすることで、安全性を確保しました。
―耐久性についてはどのような試験を実施されたのでしょうか?
菊地:製品規格ではお客様がお使いになると想定した時間から、充電、放電を繰り返す試験や着脱試験を行いました。形状記憶合金を使用したカフ部分については、ロボットアームを使った耐久試験を実施し、他社製品との比較も行いました。長期間使用しても快適な装着感を維持できることを確認しています。また、earUはバッグの中で他の物と一緒に持ち運ばれることが想定されるため、独自の試験も設計しました。バッグの中に入れそうな物(ペン、鍵、化粧品など)と一緒にearUを容器に入れ、タンブリング試験を行い、外観や機能の確認しました。
ケース蓋のミラー加工の改善前(左)と改善後(右)のタンブリング試験後
―音質を確保しながら小型化するために、どのような工夫をされたのでしょうか?
森山:スピーカーのサイズが小さくなると、開放型イヤホンでは特に低音域の再生能力が落ちてしまいます。サイズと再生能力のバランスを慎重に見極めるため、試作を重ねました。小型化しつつ、低音から高音までバランスの取れた音質を実現することが重要でした。
野崎:機構設計では、小型化検討のために、他社イヤホンの内部構造や使用部品を調査しました。カシオはイヤホンの専門メーカーではないため、市場調査の一環として、他社製品を参考にさせていただきました。特に、ドライバーユニットの小型化については、他社製品のサイズを目標値として設定し、それ以下になるように設計を進めました。
また、アクセサリへのマーブル樹脂の採用にあたっても、社内の知見を活用しました。時計や電卓などで使用している国内の材料商社とつながり、その技術を採用することでearUのコンセプトに非常にマッチしたものができました。
―量産化にあたって、最も困難だった課題は何でしょうか?
森山:スピーカー、マイク、装着センサーなど、各デバイスの特性のわずかな差異を徹底して抑え込むことでした。パーツの品質を限界まで高めてもデバイス自体の特性に加えて、筐体への組み込み時に僅かながら製品の品質にばらつきが発生してしまうことがありました。そのばらつきによって、製品が意図した機能・性能を達成できないことが判明しました。しかし本製品はお客様の「聞こえ」を支えることを目的としています。そのため装着感や聞こえ方の個体差をなくし全ての製品を均一にすることが量産化の絶対条件だと考えました。そこで、どのようにしてばらつきを抑えるか、どこまで抑えるべきかを、チーム全員で試行錯誤しながら検討し、最終的には設定した全ての品質条件をクリアして量産化を実現することができました。
菊地:特に苦労したのは、検査項目の設定です。スピーカーの音響特性やマイクの感度など、量産レベルで品質を確保するための設定には、多くの試行錯誤が必要でした。例えば、スピーカーの音響特性を測定する際、固定方法が不十分で全数やり直しになったこともありました。装着センサーの検査は特に重要で、製造現場の検査員の方々と協力しながら、確実な検査方法を確立していきました。装着センサーが正しく機能しないと、外しているのに集音が続いたり、装着しているのに集音が始まらなかったりするため、この検査は製品の品質を左右する重要なポイントでした。
野崎:音響性能を満足に達成できるマイク位置にすると、組み立てを複雑にしてしまうことから、金型にマイク位置決めを補助する形状を追加したり、組み立て作業の改善を行ったりしました。設計段階から製造現場のことを考えて設計することが、スムーズな量産化につながりました。
―技術者として、ユーザーの方に特に知っていただきたいポイントは何でしょうか?
野崎:気分に応じて見た目を変化させられるよう、他製品にはない取り外し式のスタイルアクセサリーが設定されていることです。もちろん、「聞こえ」を支援する製品としての機能を最大限に発揮させるため、本体内部のマイクの配置やドライバーの大きさなど見えない部分の機構設計にも徹底的にこだわりました。デザイン性と機能性の両立は簡単ではありませんでしたが、その分、自信を持ってお勧めできる製品になったと思います。
森山:1日使える電池持ちと、それを実現するための省電力設計です。また、LEDの色分けによる電池残量表示など、使い勝手の細かい部分にもこだわりました。左右のイヤホンと充電ケース、それぞれの電池残量が一目でわかるようになっています。LEDの色味もデザインを反映したもので、見た目の美しさにも配慮しています。
菊地: 落下試験やタンブリング試験など、日常使用を想定した徹底的な耐久性試験を実施したことです。開発チームが徹底的にこだわった品質と耐久性を、ぜひ長く使っていただく中で実感していただければと思います。
―最後に、earUを利用されている方、または購入を検討されている方に向けて、メッセージをお願いします。
森山: 私自身、初めて耳を塞がないイヤホンを使用しましたが、その快適さに驚きました。現在は、完全に耳を塞ぐタイプのイヤホンと、earUを使い分けています。会議や外出時など、周囲の音を聞きながら使いたい場面では、自然とearUを選ぶようになりました。ぜひ一度、耳を塞がない快適さを体感していただきたいと思います。
菊地: earUの差別化ポイントは、個々の聞こえに合わせるフィッティングアプリと、4種類のイヤーピースサイズ展開です。ご自身に合った設定とサイズを選んでいただくことで、最適な聞こえを体感していただけます。開発チームが徹底的にこだわった品質と耐久性も、ぜひ長く使っていただく中で実感していただければと思います。
野崎: 今回、スタイルアクセサリーを設定したことで、単なる集音器ではなく、ファッションアイテムとしても楽しんでいただけるようになりました。見えない部分の機構設計にも多くのこだわりが詰まっていますので、ぜひ、日常生活の中で、earUを楽しんでいただければと思います。
<製品サイト>
ヒアリングアシストイヤホン earU
<あわせて読みたい>
聞こえをサポートする新たな選択肢 ヒアリングアシストイヤホン「earU」開発秘話
<関連リンク>
モヤ耳 ー気持ちが届かない『聞こえ』?
最新記事
-
2026年7月22日WILD MIND GO! GO! 環境の保全 サステナビリティ 次世代の育成・自立東京都羽村市の小学校に向け自然体験ワークショップを提供 -
2026年7月21日新しい取り組み毎日身に着けるものだから…ヒアリングアシストイヤホン「earU」のこだわりポイントを開発チームが解説 -
2026年7月15日時計Roblox内でG-SHOCKやゲームを提供 バーチャル空間での新たなブランド体験とは? -
2026年7月13日教育 サステナビリティ 次世代の育成・自立 楽器 スポーツ・文化支援 CASIO WORLD OPEN 電子文具【解説】高知県とカシオ計算機が包括連携協定に至るまでのあゆみ -
2026年7月10日時計【ネーミング秘話】「G-SHOCK」の読み方と由来は? -
2026年7月6日トヨタジュニアゴルフ ワールドカップ 時計 スポーツ・文化支援 サステナビリティ 次世代の育成・自立ジュニアゴルファーを応援!2026トヨタジュニアゴルフワールドカップで参加選手全員に大会ロゴ入りG-SHOCKを提供
最新記事
-
2026年7月22日WILD MIND GO! GO! 環境の保全 サステナビリティ 次世代の育成・自立東京都羽村市の小学校に向け自然体験ワークショップを提供 -
2026年7月21日新しい取り組み毎日身に着けるものだから…ヒアリングアシストイヤホン「earU」のこだわりポイントを開発チームが解説 -
2026年7月15日時計Roblox内でG-SHOCKやゲームを提供 バーチャル空間での新たなブランド体験とは? -
2026年7月13日教育 サステナビリティ 次世代の育成・自立 楽器 スポーツ・文化支援 CASIO WORLD OPEN 電子文具【解説】高知県とカシオ計算機が包括連携協定に至るまでのあゆみ -
2026年7月10日時計【ネーミング秘話】「G-SHOCK」の読み方と由来は? -
2026年7月6日トヨタジュニアゴルフ ワールドカップ 時計 スポーツ・文化支援 サステナビリティ 次世代の育成・自立ジュニアゴルファーを応援!2026トヨタジュニアゴルフワールドカップで参加選手全員に大会ロゴ入りG-SHOCKを提供